共創プログラム事例~生成AIを活用した地域医療ソリューション

Webサイト:https://jpn.nec.com/

インタビューにご協力いただいた
日本電気株式会社(NEC)
ヘルスケア・ライフサイエンス事業部門
主席プロフェッショナル
福井 誠 様

※記載の組織名等は取材時点(2024年12月)の情報です。

はじめに
BIRD INITIATIVE では、新しい地域医療のあり方を検討する「NECヘルスケア生成AI共創プログラム」をご支援させていただきました。本事例では、NECの福井 誠氏にお話を伺い、プログラムの実施背景、取り組みの内容、そして今後の展望について伺いました。

01バックグラウンド

Q:まずはこれまでのキャリアについてお聞かせください。(BIRD島田)

NEC福井様:1993年にNECへ入社、営業部門において自治体・官公庁・医療機関・民間企業を担当していました。幅広くIT業界に携わる中でヘルスケアに興味があり、その後医療専任の営業へとシフトし、30年ほどヘルスケア・医療分野に関わっています。
5年ほど前までは病院内の情報システム――いわゆる電子カルテの領域がメインでしたが、日本の高齢化や人口構造の変化を踏まえ、「持続的な地域医療実現のためには、病院の中だけではなく、地域全体を見据えたソリューションを見出していきたい」と考えるようになりました。そこから2018年頃より新規事業開発を担当し、この5~6年は新しい取り組みに力を注いでいます。

Q:現在ご所属の部門では、どのような役割を担っていらっしゃるのでしょうか。(BIRD島田)

NEC福井様:「ヘルスケア・ライフサイエンス事業部門」に所属しており、「グローバルイノベーションビジネスユニット(GIBU)」の一部門にあたります。自分は、ヘルスケア領域における戦略担当として、既存事業の拡大と新規事業の創出、その両方をどうシナジーさせるかを考えるのがミッションです。
既存事業は、すでに市場も顧客も確立されているので、着実な売上や収益の拡大が重要になります。一方、新規事業はまだ顧客像や提供価値が明確でないため、NECの技術や顧客基盤をどのように掛け合わせれば事業として成立するのかを模索しながら、投資や研究開発を進めています。

02ヘルスケア生成AI「共創プログラム」の開催背景

Q:「ヘルスケア生成AI 共創プログラム」の開催に至った経緯を教えていただけますか。(BIRD島田)

NEC福井様:昨年(2024年)初めにChatGPTが実用化され、生成AIが本格的に使える時代が来たと感じました。グローバルで大規模投資が進む中で、ヘルスケア分野は全体の19%ほどを占めるというデータもあり、非常に大きな可能性を見いだしました。ただ、ヘルスケアは規制産業でもあるので、最初から診断や治療の示唆をするような機能には法的ハードルが高い。そこで、まずはNECが既に取り組んでいた電子カルテ事業に生成AIを組み込み、付加価値を高めるところから始めました。
 2023年度には国内初となる、電子カルテへの生成AI実装をリリースし、医師の働き方や業務効率化を支援する病院内向けのサービス提供をスタート。そこからさらに視野を広げ、「病院単体の効率化だけでなく、地域医療全体の持続可能性をどう高めるか」を考えるようになりました。高齢化や人材不足など、地域が抱える医療課題は多岐にわたります。そこで2024年度に入り、この『ヘルスケア生成AI 共創プログラム』を立ち上げ、より広い視点での解決策を探ることにしました。

03地域医療全体への広がり

Q:電子カルテとの連携で成果が出始めたので、次は地域医療に目を向けたのですね。今回のプログラムにはNECだけでなく、医療機関やヘルスケアITベンダーなど30名ほどが参加されましたが、その理由を教えていただけますか。(BIRD島田)

NEC福井様:理由は大きく2つあります。まず1つ目は、地域医療の課題が地域ごとにまったく異なること。例えば東京と地方では病院の規模や患者数、医師数など状況が全然違いますし、同じ北海道でも札幌と根室では要望や課題が大きく異なります。そのため、NECだけで解決策を考えるのではなく、それぞれの地域で医療に携わる方々と一緒に考える必要がありました。
2つ目は、私たちのビジネスが地域のパートナー企業の協力で支えられている点です。既存のICTサービスから新たな生成AI技術まで、一緒に成長していくにはパートナー企業の声が本当に重要です。そこで医療機関とパートナー企業の双方をプログラムに招き、現場の知見と技術の可能性を掛け合わせる形を取りました。

04ワークショップで見えた「共創」の可能性

Q:ワークショップではまず、グラフィックレコーディング(グラレコ)を学んでから、地域医療の理想的なサービス構想を描きました。実際やってみていかがでしたか?(BIRD島田)

NEC福井様:まず課題を口頭で言い合うだけでなく、文字に起こして視覚化するのがやはり大事であると実感しています。さらにグラレコでビジュアル化すると、相手への伝わり方が全然違うと感じました。文字だけよりも議論が進みやすく、共有しやすいのです。私は2回目の経験でしたが、改めて「効果的だ」と実感しました。普段の会議においてホワイトボードに絵を描いてイメージを共有する機会が増えましたね。

Q:サービス構想をグラレコで描いたあと、プロジェクトの指針を作り、毎回ワークショップ冒頭に読み上げていました。その進め方はいかがでしたか?(BIRD島田)

NEC福井様:非常に効果的でした。ワークが進むにつれ、取り上げるテーマやフォーカスするポイントが少しずつ変わっていきますが、根本の目的や判断基準を見失わないよう毎回読み合わせをすることで、全員が同じ方向を見続けられる。しかも単にリーダーが読むのではなく、参加者で交代して読み上げるので、自分たちのミッションを改めて認識できますね。毎回「ここはまだ達成できていないな」と気づく場面も出てきて、次に活かすサイクルが生まれるのがいいと思いました。

Q:ワークショップの進め方について感じたことはありますか?(BIRD島田)

NEC福井様:今回はワークショップの途中で何度かチーム替えを行いました。それがとても良かったです。前のチームが考えたアイデアを別のチームが引き継ぐと、若干“ずれ”が生じる反面、新しいメンバーの視点が加わって相乗効果が生まれました。さらに、医療機関の方や看護師、IT営業のプロなど、多様な専門性を持つメンバーが混ざることで、チームごとにカラーが変わる。結果として、よりリアルで新しいビジネスプランが生まれたと思います。

Q:その後、ビジネスモデルや競争優位性、事業ステップ、マーケティング戦略などを検討しつつ、宿題を挟みながら進めましたが、如何でしたか?(BIRD島田)

NEC福井様:普段、医療機関とITベンダー、発注元と受注先という関係性の中では、同じテーブルでフラットに意見を出し合う場はほとんどありません。でも今回は「地域医療を良くしたい」という共通のゴールがあったことで、医療機関の方も自ら競合分析を実施いただくなど、かなり建設的なやり取りができました。おかげでアイデアが具体化し、ビジネスプランとしてまとめられたのは大きな成果ですね。

05ビジネスプランが示す可能性

Q:最終的に5つのビジネスプランが生まれましたが、その内容や当初の期待との比較はいかがでしょうか。(BIRD島田)

NEC福井様:どのプランも実現性や堅実さをしっかり織り込んでいる印象ですね。地域医療は「5年先に成果が出ればいい」というわけにはいかず、なるべく早く社会実装を求められる現場です。その現状を反映し、プランにもスピード感が強く表れています。
NECの事業開発プロセスで言えば、今回のワークショップは「Generate」「Ideate1」あたりまでを進めた形です。ここからどのプランを優先して進めるかを絞り、「Ideate2」にあたるPoC(概念実証)へとつなげる流れがスムーズに進んでいます。実際、早ければ2024年度の第4四半期からPoCを開始し、年度末には製品化や方向性の最終判断に至る予定です。今回まとめたアイデアがそのまま後工程に直結している点は非常に良かったと感じています。

Q:プログラムに参加してくださった医療機関やITベンダーの皆さんの反響はいかがでしたか?(BIRD島田)

NEC福井様:医療機関の方々は「早く実装してほしい」と、非常に前向きですね。私たちもできるだけ早い社会実装を目指したいです。さらに、今回一緒に検討した成果を対外的に発信していくことも大切なので、社外に向けた発信も出しております(https://wisdom.nec.com/ja/feature/healthcare/2024121901/index.html)。取り組みに参加した病院が「こんな最先端の取り組みをしているんだ」と地域で評価されるようになれば嬉しいですね。

06BIRD INITIATIVEとの連携と今後の展望

Q:改めて、BIRD INITIATIVEにご依頼いただいた理由を伺いたいのですが、どのようなポイントが決め手になりましたか。(BIRD島田)

NEC福井様:過去、他社と医療機関を交えて事業創出ワークを行った際は、「ツールありき」で進められるケースがありました。参加者はツールの使い方ばかり学ばされ、最終的には“穴埋め作業”になってしまうんですね。でも医療機関の方は「ツールの専門家になりたいのではなく、課題解決をしたい」という思いが強い。一方で、BIRDさんと組んだときは、あまり詳細を説明しすぎず「まずやってみよう」というスタンスでした。必要最低限のアドバイスだけを提示し、あとは参加者に考えさせる。結果的に皆が主体的に動くからこそ、多様なアイデアが出てきました。今回も同じで、その進め方がNECだけでなく医療機関やパートナー企業にも好評でした。

Q:ほかに印象的だったポイントはありますか。(BIRD島田)

NEC福井様: 最終的に「一体感」が作れたことが大きいですね。医療機関と企業というと、上下関係や発注元と受注先といった構図になりがちですが、今回のような場では同じ立ち位置で「一緒にサービスを作り上げた」という手応えがありました。これは毎回ワークショップの最初にアサインメントシートを読み合わせ、「何のために集まっているのか」を確認し続けた効果だと思います。

Q:今後、BIRDに期待することなどあればお聞かせください。(BIRD島田)

NEC福井様:今回は地域医療というアンメットニーズと、未知数な生成AIという要素を組み合わせた、非常にチャレンジングなテーマでした。こうした「答えのない社会課題」と「使いこなしきれていないテクノロジー」の掛け算は、今後ますます増えると思います。BIRDさんのようにフレームワークやアプローチが柔軟で、参加者の主体性を引き出す進め方は、そういう複雑な課題に対して特に効果的だと感じます。ぜひ多様な社会課題の解決に応用していってほしいですね。

Q:最後に、今回のプログラムを通じた感想をお願いします。(BIRD島田)

NEC福井様:NEC、医療機関、パートナー企業という、普段はなかなか一緒に議論しない3者が未知の領域にチャレンジしましたが、想像以上に具体的なアウトプットが得られました。これはやはりBIRDさんのアプローチの強みでもあると思います。今後もいろいろな領域でこの手法を活かし、新たな事業創出や社会課題の解決へつなげていただきたいですね。

BIRD島田:ありがとうございます。私たちBIRD INITIATIVEとしても、今回の共創プログラムで得た知見を活かし、さらに多くの企業の事業創出や社会課題解決を加速していければと考えています。本日はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。

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